オーナー1人で回す鍼灸院が、売上の構造を「見える化」するまで
東京・代々木の完全紹介制鍼灸院「 sukunabikona鍼灸院 」。オーナー1名で施術から経営まですべてをこなしていました。
毎日予約の確認に追われ、カルテは手書き、紹介してくれたお客様が誰なのかもわからない。忙しいのに、何を改善すれば利益が伸びるのかが見えない — そんな状態からのスタートでした。
専用アプリ + Webサイト + 管理ダッシュボード + AI分析基盤を段階的に導入した結果、1日15分の管理作業を削減し、カルテ作成時間を半減。経営状態を毎日30秒で把握できるようになりました。
導入前後の変化を先にお見せします。
| 領域 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 紹介管理 | 口頭で「LINE に連絡して」 | 紹介コードで自動追跡・可視化 |
| 予約管理 | SaaS + Google カレンダーの二重管理 | アプリ予約 → カレンダー自動連携 |
| 問診・カルテ | 紙 or バラバラのメモ | アプリで事前問診 → AI が SOAP カルテ自動生成 |
| 経営判断 | Firestore コンソールを直接確認 | ダッシュボードで KPI・売上・リテンションを即時把握 |
| 顧客フォロー | 勘と記憶に頼る | AI が顧客データを分析し、空き枠案内やフォローメッセージを LINE で自動配信 |
| 月額コスト | 約1万円(SaaS 合計) | 約1万円(自社システム保守) |
背景:完全紹介制の鍼灸院が抱えていた課題
sukunabikona鍼灸院は、施術者がオーナー1名の小規模な完全紹介制鍼灸院です。鍼灸・整体・アロマを組み合わせたオーダーメイド施術で、舞台役者や経営者など身体のパフォーマンスを重視する顧客を中心に施術を提供しています。
紹介制という特殊なビジネスモデルゆえに、汎用SaaSでは対応しきれない課題がありました。
課題1:紹介の流れが見えない
既存患者が新規を紹介する際、「公式LINEに連絡してね」と口頭で伝えるだけ。誰が誰を紹介したかのデータが一切残らず、ロイヤルカスタマーが誰なのかも把握できていませんでした。
課題2:予約管理が二重になっている
月額約1万円のSaaSを使っていましたが、結局Googleカレンダーも並行して確認する必要があり、ツールが増えるほど手間も増える状態に。
課題3:問診・カルテがつながっていない
問診票は紙、施術メモはバラバラのメモアプリ。顧客ごとの施術履歴を追うのに毎回探す手間がかかり、過去の症状の経過を把握しにくい状況でした。
課題4:データはあるのに活用できない
来院頻度や離脱傾向、紹介の効果などを知りたくても、数字を見る手段がない。感覚的な経営判断に頼らざるを得ませんでした。
アプローチ:3段階で段階的にシステム化
一気に全てを作るのではなく、業務への影響が大きい順に3段階で導入しました。
Phase 1:専用アプリ — 予約・問診・紹介を1つに
紹介コードで「口コミ」をデジタル化
既存患者にユニークな紹介コードを発行。新規患者はアプリダウンロード時にコードを入力して登録します。
これにより、誰が何人紹介したかがデータとして蓄積されるようになりました。
Google カレンダー連携で二重管理を解消
患者がアプリから予約を入れると、Google カレンダーに自動で反映されます。
ポイント: 既に使い慣れている Google カレンダーを活かし、新しいツールの学習コストをゼロにしました。
事前問診票 + AI カルテ自動生成
アプリから来院前に問診票を送信。施術後のメモと合わせて、SOAP 形式のカルテを AI(Gemini)が自動生成します。
| SOAP | 内容 | データソース |
|---|---|---|
| S 主観的情報 | 患者の主訴・体調 | 問診票(体の不調部位マップ含む)から自動取得 |
| O 客観的情報 | 施術者の所見・施術内容 | 施術者が音声入力 |
| A 評価 | 施術後の変化 | AI が S + O から生成 |
| P 計画 | 次回の方針 | AI が提案、施術者が確認 |
施術者は音声でメモを残すだけ。問診票のデータと組み合わせて、AIが構造化されたカルテを自動で作成します。
Phase 2:Web サイト — 公開サイト + SEO/LLMO
公式 Web サイトを React + Vite で構築。一般的な SEO に加えて、LLM 向けの最適化(LLMO)も実施しました。
llms.txt/llms-full.txtを配置し、ChatGPT や Claude などの AI アシスタントが院の情報を正確に回答できるようにした- JSON-LD(MedicalClinic)で構造化データを埋め込み
Phase 3:管理ダッシュボード — 数字で経営を見る
ここが今回の導入で最も大きな価値を生んだ部分です。
オーナー専用の管理ダッシュボードを構築。認証で保護されており、外部からはアクセスできません。
ダッシュボードで見えるようになったこと
売上の構造が分かる
売上 = 客数 × 購買率 × 客単価
この公式を常に表示し、どの要素に改善余地があるかを一目で把握できるようにしました。
- 客数 — 1回以上来院した顧客数
- 購買率 — 過去3ヶ月平均で、ひと月に何割の顧客が来院したか
- 客単価 — 過去3ヶ月の予約コース料金の平均
購買率と客単価は過去3ヶ月の実績から算出するため、月初でも安定した予測値が表示されます。当月の確定売上(予約ベース)と予測の達成率もあわせて表示。
6 つの KPI で健康状態を診断
各指標に自動診断(OK / 注意 / 要対応)が付与され、前月比の増減も表示。数字の意味が分からなくても、色で状態が分かるようにしています。
| KPI | 見ているもの | 診断基準 |
|---|---|---|
| 月間予約数 | 集客力 | 前月比で判定 |
| キャンセル率 | 予約の確度 | 10%以下 → OK、15%超 → 要対応 |
| オーガニック紹介数 | 口コミの健全性 | アンバサダー除外した純粋な紹介数 |
| Web アクティブユーザー | サイトへの関心 | GA4 連携 |
| 休眠顧客数 | リテンション | 60日以上未来院の顧客数 |
リテンションを RFM で可視化
顧客を RFM(Recency / Frequency)ベースの 5 セグメントに自動分類し、それぞれに推奨アクションを表示。
| セグメント | 条件 | 推奨アクション |
|---|---|---|
| ロイヤル | 最近来院 + 高頻度 | 感謝・紹介依頼・アップセル |
| 有望新規 | 最近来院 + 低頻度 | 2回目来院促進 |
| 要注意 | やや前 + 中頻度 | リエンゲージ |
| 離脱リスク | 前 + 低頻度 | 緊急フォロー |
| 休眠 | 長期未来院 | 復帰キャンペーン |
コホート分析で「定着率」を追跡
初来院月ごとにグループ化し、N ヶ月後に何%がリピートしたかをヒートマップで表示。どの月に来た新規客が定着しているかが一目で分かります。
紹介ネットワークを可視化
紹介関係を D3.js のフォースグラフで可視化。誰が紹介のハブになっているか、紹介の連鎖がどう広がっているかが直感的に分かります。
AI レコメンド + LINE 配信:「次に何をすべきか」を自動で提案・実行
ダッシュボードで数字が見えるだけでは、行動に移せない。そこで、AI(Gemini 2.5 Pro)が顧客データを分析し、個別のネクストアクションを自動生成。さらに LINE と連携し、メッセージの送信まで自動化しました。
AIレコメンド
- 対象ユーザーを自動抽出 — RFM セグメント(5分類 + 低評価)をもとに優先度を判定
- 顧客データを収集 — 直近の来院コース、最新のカルテ(SOAP)、問診票の主訴、来院パターン
- AI がメッセージ文案を生成 — カルテの内容を踏まえた、自然な体調伺いのメッセージ
空き枠の自動配信
予約の空きが多い日を検出し、しばらく来院されていない方に空き枠の案内を LINE で自動送信します。
- 翌日〜3日後の空き率が一定以上の場合に配信
- 最終来院から2週間以上経過した LINE 連携済みの顧客が対象
- 再来院するまで1回のみ送信(しつこくならない設計)
- 空き枠は「曜日+時間帯」でざっくり案内し、具体的な予約はアプリから
実際に生成されるメッセージの例
福田です。その後、肩や腰の調子はいかがですか?前回だいぶ張りが強かったので気になっておりました。
今週の木曜・金曜の午後にまだ空きがございますので、よければまたお身体のメンテナンスにいらしてください。
ご予約はアプリからお願いいたします。
ポイントは、コース名や料金を一切出さないこと。営業感のない、体調を気遣う自然な文面を AI が生成します。
配信の設計思想
- 既に未対応のレコメンドがある顧客はスキップ
- 空き枠案内は再来院するまで1回のみ(再来院でリセット)
- 登録のみで来院がない方には月1回の季節のお知らせを配信
- 毎日 04:30 に自動生成 + ダッシュボードから手動生成も可能
技術構成
| レイヤー | 技術 | 役割 |
|---|---|---|
| モバイルアプリ | Flutter (iOS / Android) | 患者の予約・問診・紹介 |
| Web サイト | React + Vite + Tailwind CSS | 公開サイト + 管理ダッシュボード |
| バックエンド | Firebase Cloud Functions | API・スケジュールタスク・トリガー |
| AI | Vertex AI (Gemini 2.5 Pro) | カルテ自動生成・レコメンド生成 |
| データベース | Cloud Firestore | 全データの永続化 |
| 分析 | Google Analytics 4 | Web アクセス指標 |
| チャート | Recharts + D3.js | ダッシュボードの可視化 |
コード分割によるパフォーマンス最適化
ダッシュボードは React.lazy で遅延読み込み。一般ユーザーがアクセスする公開サイトのバンドルに、ダッシュボードのコード(Recharts, D3.js 等)は一切含まれません。
費用
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| アプリ構築(iOS・Android) | 30万円〜 |
| Web + ダッシュボード構築 | 10万円〜 |
| 月額保守(サーバー・AI・アップデート込み) | 約1万円/月 |
以前 SaaS に支払っていた月額とほぼ同額で、予約・問診・カルテ・紹介管理・経営分析・AI レコメンドのすべてを含む自社専用システムを運用しています。
成果まとめ
業務効率
- 予約の二重確認がなくなり、1日あたり約15分の管理作業を削減
- カルテ作成が音声入力 + AI 自動生成で、1件あたりの記録時間が半減
- 問診票がアプリで事前送信されるため、来院時の問診時間が短縮
データ活用
- 紹介コードにより、口コミの流れが数字で可視化
- KPI ダッシュボードで、経営状態を毎日30秒で把握
- RFM 分析とコホート分析で、リテンション施策の優先順位が明確に
顧客フォロー
- AI レコメンドが休眠リスクの顧客を自動検出し、フォロー漏れを防止
- 空き枠がある日にはLINEで自動案内、来院のきっかけを作る
- カルテに基づいたパーソナライズされたメッセージで、患者との関係性を維持
この事例のポイント
- 今のやり方を活かす — Google カレンダーや現地決済など、うまく回っているものはそのまま残し、負担が大きい部分だけを改善
- バラバラの情報を1つにまとめる — 予約・問診・カルテ・紹介が1箇所に集まることで、全体像が見えるようになる
- 少しずつ始められる — まずアプリで日常業務を楽に → Webで集客基盤 → ダッシュボードで経営の見える化と、効果を実感しながら段階的に拡張
- AIが「次に何をすべきか」を自動で実行 — 数字を見せるだけでなく、空き枠案内やフォローメッセージの生成からLINE配信まで自動化。見て終わりではなく、システムが行動する
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